アラサーバイ♂らむきーブログ

らむきー と申します。バイセクシュアルです。男の人も女の人も好き、ただどちらかと言うと男の人の方が好き。という 人間です。大阪在住。

桜庭一樹「少女を埋める」

昨日読み切った1冊。

ノンフィクションのような内容だが、著者曰く 「確実な虚構を入れたから、あくまでも小説」だそうだ。

山陰で生まれ、小説家として東京で暮らすようになった著者。父の危篤により再び故郷へ戻り、実母との物理的距離が縮まる中、噴出してきた感情の数々・・・。

山陰という土地柄、典型的な田舎人間が多いようだ。曇りがちな天気も起因しているのか。
東京では人間関係に影響が出そうな表現、内容は口外するのを憚るが、 この地では無遠慮に口に出す。(著書より)

また、全体的な秩序維持の下には、個人の幸福は全力で押さえつけられる。

という表現に戦き、恐怖を感じた。
と共に、自分の故郷にもある共通点を思い出した。

例えば、消防団
都会ではあまり聞いたことがないが、自分の生まれ育った地域では高校を卒業した男は地域の消防団に加入することになっていた。、任意という義務のような決まり。
もしそれを拒むと、○○さんの息子さんはおかしいわ、変やわと近所中の噂になるそうな。

あとは、家父長制が絶対的な幅を利かしている田舎において、家族や地域のルールを決定する際、多くにおいて女性の意見は斥けられる。
代々続く偉いさんや名家の男が権力を持ち、○○さんとこは偉いさんやからなぁ〜 とそれになんの違和感も持たず、自然に踏襲する。
わたしなど子供たちが、何かおかしくない?と石を投げると、「そんなこと言ったらアカン!!」と大人たちが血相を変えて潰しにかかる。

ということが確かに、子供時代には数多くあった。
とにかく、疑問を持たず、ただひたすら昔からのやり方を同じように受け継ぐことを良しとする文化。そうしていれば出る杭は打たれないし、ご近所さんとも上手く付き合っていける。

それに反抗するなら
「出ていけ」。嫌なら 「従え」だ。

ただ、家族の中でまでその因習が持ち込まれるとしたら、どうだろうか。
世間体を大切にするあまり、時に地域の付き合いに反抗するかのような子供の意見を力づくで封じ込めてしまえば、親子関係に支障をきたすことは明らかである。
著者はと 東京に出たかったと綴っている。
田舎の人間関係は濃密で、時に暴力的だ。
静かに誰かの首を絞め、圧力を加えていく。

その点、近所に誰が住んでいるのか分からない都会で暮らすのは気楽だ。
うちのマンションなんて、エレベーターで相乗りした際は会釈こそすれ、挨拶すらしない人もいる。
そんなコミュニケーションを放棄した人たちがたくさんいる環境に慣れたら、今更気を使いまくる、窒息しそうな場所で生活することなんて、できない!と思うのはとても理解出来る。
実際実父が亡くなり、母から「落ち着いたらこっちに帰ってきてよ」と言われた著者が、「いや、職業柄それは難しい・・・」
とハッキリ断る。
著者は母から暴力を振るわれたこともあるそうだ。しかも実母はその母(祖母)から暴力を受けていたと、暴力の、連鎖。
著者が孕んでいるものが多く、成長する過程で気苦労が耐えなかったんじゃないかと思った。

タクシーに乗り、運転手が20代の若者なのを知り、「この仕事は長く続けられないから、他の仕事をした方がいい!」とダイレクトに言ってしまうような 母と同じ家で暮らしてきたんだもの。
ただ、そんな母へも一定の理解と客観的な視点を持っている著者は大人だ。

表題作の他に著書に書かれていない内容をあらすじとして文芸批評欄に書かれてしまった事件?への対応、奔走、ついには疲れて寝込んでしまう・・・等の顛末が書かれたキメラ、も併録。

桜庭さんって少女を主人公にした小説だと、追い詰められた立場の人間の心理を書くのが上手いという印象だった。
少女には向かない職業とか、砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けないなど。

彼女が母をデマから守ろうとする姿は勇ましく、弱いなんて思えなかったし、積み重ねてきたキャリアを反故にしてでも火を消しに奔走したのは意味のあることだったと思う。