ばかもの/絲山秋子 本レビュー。
主人公は、ばかものである。
酒に溺れ何もかもを無くしてしまう。
そんなばかものでも、好ましく思う者もいる。
蓼食う虫も好き好きか。
物語中に漂う気だるい雰囲気。「〜しねぇよ!」という乱暴な口調が似合う男と女。
傍から見ると悲壮な感じのする2人だが、少し離れて俯瞰して見ると、付かず離れずで上手いこと関係を保っているように見えてくる。
後半、額子が片腕を失い片品に引きこもったのを知って主人公が様子を見に行く場面、そこから腐れ縁とも思える2人の物語が始まっていく。
ネユキが逮捕されるのも必要なスパイス的事件だし、主人公に寄り添うおばやんの優しさが所々で沁みる。
ばかものでいいじゃないか。
相性がいいんでしょ?ならええやん2人で仲良くいきなはれ。
物語が終わったあと、2人にそう声をかけたくなった。
P.S.
10代の時に読んだ小説を最近再読している。
10年も経つと、恋愛を中心としたあらゆる経験値が増えているため、読み方が以前とはごろっと変わっているのを感じる。
読んでいる本の中で人物たちが仲良くしている場面があると、ふと顔を上げ、「イイナァ〜〜!」と呟いている。
とにかく、登場人物たちの仲が良いのが心底、羨ましいのである。
現実ならなかなか相性の良い相手など見つけられない。
趣味合うじゃん、居心地いいじゃん!などと思っても、相手のどこか嫌なところが見えると幻滅したり、不満に思ったりするものだし。
ただこの話の中に出てくるヒデと額子は、妙に安定感があるんだよな。
近づいたり離れたりするものの、まるで自分の戻るべき場所に帰還するように、最後は2人 舞い戻る。
それは相手を信じているからなのかな。だとしたら物凄い信頼関係だ。
世界に人は何十億もいるのに、自分と合う人って実際は物凄く少ないんだろうな。考えると少し寂しくなるけど、自分もそんな相手に出会いたいと思った😌